専門性を深め、施設の文化へ。ご利用者の「その人らしい暮らし」を支えるプロフェッショナル
2026.10.05
1.なぜ、私たちはマイスター制度をつくるのか
介護福祉士は、介護の専門職です。
国家資格を取得し、介護に必要な知識や技術を身につけ、アセスメントを行い、介護過程を展開しながら、ご利用者の生活を支える専門職です。
しかし、医療の世界を考えてみると、医師という国家資格を持っていても、病院には内科、外科、整形外科、循環器内科など、それぞれの専門領域があります。
介護も同じではないでしょうか。
介護福祉士という専門性を土台に、さらに特定の領域を深く学び、実践し、その専門性を高めていく。
その先にあるのが、私たちの考える「プレミアケアマイスター」です。
マイスターは、単に「その分野に詳しい職員」を認定する制度ではありません。
専門性を深め、現場で実践し、その成果を検証し、さらにチームへ伝えていく。
そして最終的には、その専門性を施設全体のケアの文化として根付かせる。
それがプレミアケアマイスターの役割です。
2.専門性を深めることは、安心・信頼につながる
ご利用者やご家族が施設を選ぶとき、何をもって「良い施設」と感じるのでしょうか。
設備の新しさやICTの導入だけではありません。
「この人なら分かってくれる」
「この施設なら安心して任せられる」
「自分の家族を大切にしてくれている」
そう感じられることが、安心や信頼につながります。
そのためには、職員一人ひとりがご利用者のことを深く知り、専門的な視点から生活を支える力を持つことが必要です。
私たちは、専門性を高めることそのものを目的にはしていません。
専門性は、ご利用者の福祉を実現するための手段です。
介護という技術や知識を使って、その人の生活を支える。
そして、その先にある「その人らしい幸せや豊かさ」を実現する。
だからこそ、私たちは専門性を追求します。
3.「一人の専門性」を「施設の文化」へ
マイスター制度で大切にしていることがあります。
それは、
専門性を、個人の中だけに留めないこと。
です。
例えば、認知症ケアマイスターだけが認知症ケアに詳しくても、それだけでは施設全体のケアは変わりません。
排泄ケアマイスターだけが自然排便について詳しくても、それだけではご利用者の生活は変わりません。
マイスターが持つ知識や技術をチームへ伝え、実践し、共有する。
その積み重ねによって、
「専門家がいるからできるケア」から、
「施設として当たり前にできるケア」へ。
変えていきます。
つまり、
一人の専門性を、みんなの当たり前へ。
これがマイスター制度の目指すところです。
そして最終的には、
専門性を「人」に宿すだけでなく、「文化」にする。
ことを目指しています。
4.認知症ケアマイスター
「その人を、とことん知る」
認知症ケアで最も大切なのは、認知症という疾患だけを見ることではありません。
「この人は、どんな人生を歩んできたのか」
「何を大切にしてきたのか」
「何が好きなのか」
「何が不安なのか」
「なぜ、今この行動をしているのか」
その人をとことん知ることから、アセスメントは始まります。
認知症ケアマイスターは、こうした**「その人を深く知る」という視点を施設のケアに落とし込む役割**を担います。
BPSDを単なる「問題行動」として捉えるのではなく、その背景にある原因や環境、身体状態、生活歴などを多面的に考える。
そして、その人に合ったケアを考える。
その結果として、BPSDの緩和や、必要性を見直した向精神薬等の減薬につなげる取り組みも行います。
目指しているのは、症状を抑えることだけではありません。
薬や制限によって生活を整えるのではなく、その人を理解することで、その人らしく穏やかに暮らせる環境をつくること。
それが認知症ケアマイスターの専門性です。
5.排泄ケアマイスター
排泄の不安を減らし、「やりたいこと」へ向かえる生活へ
排泄は、人の尊厳と生活に直結しています。
「トイレは大丈夫だろうか」
「漏れてしまったらどうしよう」
「便が出ない」
そうした排泄への不安が大きければ、外出したい、誰かに会いたい、何かをしたいという気持ちよりも、排泄への不安が優先されてしまうことがあります。
だからこそ私たちは、排泄を単なる「介助業務」として捉えません。
一人ひとりの排泄パターンを把握し、その人に合ったタイミングや方法を考える。
自然排便を目指し、必要に応じて下剤等の使用についても見直していく。
「出ればいい」ではなく、
気持ちよく排泄できることが、その人の生活を広げる。
という視点です。
排泄の不安を減らすことによって、ご利用者が「やってみたい」「出かけたい」「人と会いたい」と思える生活を支える。
それが排泄ケアマイスターの役割です。
6.看取りケアマイスター
看取りは、最期から始まるのではない
看取りケアというと、「終末期になってから行うケア」と考えられがちです。
私たちは、そうではないと考えています。
ご入所いただいたその瞬間から、その方のこれからの人生を支える準備が始まります。
「どんな暮らしがしたいのか」
「何を大切にしているのか」
「どんなことを家族と一緒にしたいのか」
「もし人生の最終段階を迎えたら、どう過ごしたいのか」
こうした想いを、ACP(人生会議)を通して少しずつ確認していく。
もちろん、人の想いは変わります。
だからこそ、一度決めて終わりではなく、日々の暮らしの中でご本人やご家族の想いを確認し続けることが大切です。
看取りケアマイスターは、こうした考え方を施設の文化として根付かせ、
「最期を支える」のではなく、「その人の人生を最後まで支える」
ための仕組みづくりを進めています。
7.口腔ケアマイスター
「口から食べる」を、できる限り支える
口腔ケアは、口の中をきれいにするだけではありません。
口腔衛生を整えることは、誤嚥性肺炎などのリスク低減にもつながります。
また、義歯の状態や装着状況、摂食嚥下機能などを確認しながら、
「食べたいものを、できる限り、その人らしい形で食べられる」
ことを支えることも重要です。
そのため、言語聴覚士などの専門職とも連携し、摂食嚥下機能を評価しながらケアを考えます。
もちろん、身体機能の低下による誤嚥性肺炎をすべて防げるわけではありません。
しかし、
「口腔衛生が十分でなかったことによるリスクなのか」
「摂食嚥下機能そのものの低下によるものなのか」
を考えることはできます。
原因を考え、ケアの質を振り返る。
その視点が、次のケアの改善につながります。
さらに、脱水や低栄養などから誤嚥性肺炎のリスクが高い方を把握し、必要に応じて起床時の口腔ケアを追加するなど、個別のリスクに応じたケアにもつなげています。
こうした取り組みは、プレミアケアインデックスの指標とも連動しています。
8.ノーリフトケアマイスター
「持ち上げない」から、「人にも優しい介護」へ
ノーリフトケアは、職員の腰痛予防だけを目的としたものではありません。
スライディングシート、スライディングボード、グローブなどの福祉用具を適切に活用し、職員の身体的負担を減らしながら、ご利用者にも負担の少ない移乗を実現します。
無理に身体を動かしたり、持ち上げたりすることで、ご利用者のこわばりや余計な筋緊張を引き起こしてしまうことがあります。
適切な福祉用具と技術を使うことで、そうした負担を減らし、拘縮予防にもつなげていきます。
そして重要なのは、福祉用具を「導入して終わり」にしないことです。
使い方を学び、技術を磨き、自己研鑽を続ける。
その文化を現場に根付かせる。
ノーリフトケアマイスターは、職員とご利用者の双方にとって、より安全で負担の少ないケアを施設のスタンダードにしていく役割を担います。
9.マイスターとプレミアケアインデックス
マイスターの活動は、プレミアケアインデックスとも深くつながっています。
プレミアケアインデックスは、私たちが独自に開発したケアの指標です。
ご利用者の状態や生活をさまざまな角度から捉え、ケアの変化や成果を確認し、次の改善につなげていきます。
マイスターの活動も、
専門的に考える
→ 実践する
→ 結果を見る
→ 振り返る
→ 改善する
→ チームへ共有する
というサイクルの中にあります。
つまり、マイスター制度とケアインデックスは別々の取り組みではありません。
専門性を高める「人」と、それを可視化し改善につなげる「仕組み」。
この二つを組み合わせることで、個人の経験や感覚だけに頼らない、根拠あるケアを目指しています。
10.マイスターだけが専門的なケアをするのではない
ここは、プレミアケアマイスターを理解するうえで非常に重要なところです。
マイスターがいるからといって、
「認知症のことは認知症ケアマイスターに任せる」
「排泄のことは排泄ケアマイスターに任せる」
ということではありません。
むしろ逆です。
マイスターが専門性を深め、その知識や技術を職員へ伝え、チームで実践する。
そして、その実践が積み重なり、
「その専門性を持った職員がいるからできるケア」から、
「この施設では当たり前に行われているケア」へ変わっていく。
それが私たちの目指す姿です。
11.専門性を「人」から「文化」へ
私たちが目指しているのは、マイスターの人数を増やすことだけではありません。
認知症の人を「その人」として理解する。
排泄を尊厳や生活の一部として考える。
入所した瞬間から、その人の人生の最終段階まで考える。
口腔から「食べること」「生きること」を考える。
移乗するとき、ご利用者にも職員にも負担の少ない方法を考える。
こうした専門的な視点が、職員一人ひとりの日常の判断に自然に反映されること。
それこそが、私たちの目指す施設文化です。
一人の専門性を、チームの知恵へ。
チームの知恵を、施設の文化へ。
そして、その文化が、ご利用者の安心、信頼、共感につながっていく。
12.すべては「介護」の先にある「福祉」のために
私たちは、マイスター制度そのものを目的にはしていません。
プレミアケアインデックスも、AIも、ICTも、介護テクノロジーも同じです。
すべては手段です。
介護とは、知識や技術、経験を活かして、ご利用者の生活を支えること。
そして福祉とは、その人の幸せや豊かさを追求すること。
だからこそ私たちは、
介護を手段として、福祉を実現する。
そのために専門性を高めます。
そのためにマイスターを育てます。
そのためにケアを科学します。
そして、一人ひとりの専門性を施設の文化へと変えていきます。